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"Tsukuda Island in Musashi Province "  "Hokusai Katsushika"

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現在の「東京都中央区佃1丁目」の辺りが、この図に描かれた佃島である。当時は、隅田川河口に近い永代橋から富士を眺めれば、右側に佃島、そのすぐ左側には石川島が見えた。
この図では、右手の家が建ち並ぶ小さい方の島が佃島で、左の木立に囲まれたのが石川島。
佃島は、正保元年(1644)に摂津国佃村(現・大阪府西淀川区佃)の漁師たちが江戸に呼び寄せられ、隅田川河口の寄州を埋め立てて作った島です。その事情は徳川家康に関係するが後で触れる。  古地図『新撰増補大坂大絵図』(1691年)には神崎川の中州に「佃田村」が見られる。
  
度々引用するが、斎藤月岑の『江戸名所図会』には佃島の図が3図あり、白魚漁の様子や海上交通の盛んな様子が描かれている。 そのうちの『佃島 白魚網』にたくさん描かれている「四手網」漁は、水深の浅い場所で小魚などを獲る漁法で、「四手網」と言う四角形の敷網を沈めておいて、漁火などで小魚をおびき寄せて網を引き上げる。
  
この「四手網」は、歌麿の3枚組絵「四手網」と言う作品では、一種の観光漁船遊びと言う趣で描かれている。 
初代歌川広重の『名所江戸百景 第四景 永代橋佃しま』と言う図も、永代橋の橋下から佃島の方角を眺めた夜景であるが、漁火を焚きながら白魚漁をする四手網が描かれている。
同じく初代歌川広重の『東都名所佃島入船ノ図』には、五大力船と呼ばれる廻船など大小様々な船が描かれているが、この図の左端にも「四手網」漁をする小舟が描かれている。
また、二代目歌川広重には、佃島住吉神社から対岸を眺めた『江戸名所四十八景三十 佃しま』と言う図がある。
  
今日でも使われている「江戸前」とは、魚影が豊富であった江戸湾の漁場のことであるが、狭義には、かって存在した「江戸前島」や「佃島」周辺を指した。
我々の知る佃煮の始まりはこの佃島にあるが、傷みの早い白魚の保存食がその始まりかも知れない。
  
隣の石川島は元々あった島で、江戸時代初期には「森島」または「鎧島」と呼ばれていた、と前出の『江戸名所図会』には書かれている。
3代将軍家光の時代に、旗本石川正次がこの島を拝領し、その屋敷もあったので、石川島と呼ばれるようになった。
石川正次は2代将軍秀忠の時代に御船奉行として幕府水軍を率いる役目であった。時代は下って嘉永6年(1853)に、幕府は石川島に造船所を設置し、軍艦を建造した。
これが現在のIHI(石川島播磨重工業)の前身となった。
幕府の御船奉行の家名が現代の造船会社に引き継がれていく、と言う因縁めいた話である。
  
この図は『富嶽三十六景』シリーズの中の藍摺り10枚のうちの1枚で、後で色摺りも出版されている。
富士は隅田川河口から南西の方角に見え、左に伸びる富士の稜線の手前には伊豆半島の付け根の山々が見える。
一番手前に見えているはずの三浦半島には標高200mそこそこの山しかない。  従って、石川島の真向こう遠くに見えるこんもりとした山は、おそらく伊豆半島の天城山(標高1405m)ではないかと思われる。
  
図の中央手前に大きく描かれた舟の積荷は何であろうか? 三角に高く積み上げられて、遠景の富士と相似を為している。
ベロ藍で美しく仕上げられた図は、いかにも江戸前の広々とした湾の物産が盛んな様子を、それぞれの舟の姿と林立させた帆柱で見事に表現している。
  
さて、江戸佃島の始まりのことである。
徳川家康が慶長8年(1603年)に江戸幕府を開いたとき、摂津国佃村の名主森孫右衛門一族7名と漁民33名を江戸に呼び寄せ、隅田川の砂州を埋め立てさせて漁村を作った。
わざわざ摂津国の漁民を呼び寄せた理由は次のようである。
  
天正10年(1582年)に明智光秀による「本能寺の変」が起こったとき、織田信長に招かれて上洛していた徳川家康は、摂津国堺見物を済ませ、京都へ上洛する途中の河内国飯盛山付近(現・大阪府四條畷市)で信長の横死を知ったに。 一刻も早く家康の本拠地岡崎城に戻らねばならない。 明智勢の追及を避けながら、主従僅かな人数での逃避行は実に危険であった。
そのときに摂津国佃村の漁民たちが家康の逃避行に力を貸したので、家康はその恩義に報いるために江戸に呼び寄せ、漁業的特権を与えた、と言うのである。
  
似た話は、家康一行の「伊賀越え」の逃避行にもあり、この時、服部半蔵を始めとする伊賀者や甲賀者が手助けをしたので、両者とも家康に召し抱えられる事になった。
お庭番、即ち伊賀・甲賀者の忍者と言うような俗説がまかり通っているようだが、お庭番とは8代将軍吉宗が新しく設けた幕府の職制で、平たく言えば、伊賀・甲賀者が隠密として使い物にならなくなったので、新しい職制を導入したのが実情らしい。

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