"Thirty-six views of Mt. Fuji/Senju in the Musashi Province" "Hokusai Katsusika"
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千住宿は、東海道品川宿、中山道板橋宿、甲州街道内藤新宿と並んで江戸四宿のひとつで、江戸日本橋を起点とする日光街道と奥州街道の一番目の宿場町でした。
以前に投稿した『富嶽三十六景 隅田川関屋の里』の関屋の里は千住宿に属していた場所です。
千住宿は岡場所と言われる遊郭もあったほど栄えた宿場でした。岡場所とは幕府公認の遊廓である吉原に対して、非公認の遊郭のことです。
このシリーズの中に、『富嶽三十六景 従千住花街眺望ノ不二(せんじゅはなまちよりちょうぼうのふじ)』と言う図があります。 これは花街すなわちここの遊郭から眺めた富士の図です。
千住宿の周辺一帯は農村地帯なので「やっちゃ場」と呼ばれる青物市場があり、神田青物市場と駒込青物市場とを合わせて、江戸三大やっちゃ場と称されたほどです。
特産の農産物として「千住ねぎ」は、当時よりずいぶん品種改良されていますが、今でも有名ですね。
この図の馬の背に積まれている青物はこの特産「千住ねぎ」だ、と言う解説もあるが少し疑問もある。
当時は、白い部分が長い「根深ネギ」までに品種改良が進んでなく、白い部分が短かかった。 とは言え、全く白い部分が全く表現されてないのは少し変である。
しかも、馬の背に積まれているのがネギにしては長すぎる。 従って、馬の背に積まれているのは、馬の飼葉か堆肥用の青草ではないかと思われる。
ただ、前方一面に広がる青々とした畑は特産「千住ねぎ」畑で、馬の背にはその「千住ねぎ」が積まれている・・・・と、この図を見たいところではありますが。
描かれている木製の構造物は堰枠(せきわく)と言い、隅田川の水を用水路に逆流させないための水門です。 この堰枠によって、富嶽シリーズには珍しい幾何学的面白さが生まれている。
加えて、北斎はこの図でも構図的な細工をしている。農夫のひく手綱に何かがぶら下がって、その手綱が遠方の富士と対称の逆三角形を描いている。
さて、手綱にぶら下がっているものは何なのか? 様々な解説では「草鞋」説と「子亀」説に分かれます。
「草鞋」説を採るなら、それは、馬が使う替え草鞋で、それが必要なほど遠方からの帰り道、と言う解説になります。
しかし、千住一帯は農村地帯なので、馬の背に積まれているのが「千住ねぎ」であれ、飼葉であれ、それを収穫するのに、さほど遠方まで出かける必要はない。
また、手綱を逆三角に引っ張るだけの重さなら手綱に結わえ付けることはないでしょう。
当時は馬の蹄の保護に馬用草鞋があり、歌川広重の名所江戸百景「四ツ谷内藤新宿」には、草鞋を履かせた馬のクローズアップが描かれている。
「子亀」説を採ると、農夫が子供の土産に子亀を・・・と言う解説になります。
素直に図を見ると、子亀が手綱に食らいついており、子亀は紐を引きずっているように見えます。 手綱のピーンと張った緊張感はこちらの説の方がしっくりする。
ただ、子供の土産としての囚われの身にしては、逃げ出さずに手綱に食らい付いたのは、子亀の意地か(笑)
説が分かれている理由は、せいぜいA3サイズの図に描かれた「草鞋若しくは子亀」が小さすぎて判然としないからです。
さて、富嶽シリーズの作品には物語性を含ませた作品が多く、中には登場人物の会話すら聞こえてきそうな図があったりします。
その観点からこの図を見ると、手綱にぶら下がるのが草鞋であるとすると、この図の面白みが半減する。
図の物語性を考えてみると、私は子亀説に軍配を上げたい。
そして、北斎のいたずら心が生み出した、富嶽三十六景シリーズの中で最もユーモアのある作品と見たい。 以下はこの図に妄想する私の作り事です。
農夫は釣人たちの側を通りかかる。
農夫~いやぁ、今日の富士はとりわけ見事ですなぁ。
釣人~ええ、ホントに。 釣りに夢中で気付かなんだ。
亀を釣って糸が切れたんで、もう釣りはヤメです。
こうやってゆっくりと富士を眺めるのもなかなかのもんですな。
人間どもが風雅な会話で憩っている隣で、馬と子亀が諍っている。
子亀~このやろう!オレを陸(おか)に引っ張り上げたのは誰だっ!
昼寝の邪魔しやがって! 手綱を噛み千切ってやる!
馬 ~オレ達は関係ねぇじゃねぇか!
てぇめぇが口いやしくて、妙な餌に食らいついたからじゃねぇのか!
蹴ったろか、こいつ!
こんな会話が聞こえてきますね。
馬の右足は今まさにサッカーボールのように子亀を蹴ろうとしている。
子亀は健気にも農夫の手綱に食らいついて放さない。 躰は食いちぎった釣糸をまだ引きずっている。
ほら、たてがみで見えないが、馬の目は子亀を睨みつけていますよね。
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