"Thirty-six Views of Mt. Fuji/Under Mannen Bridge at Fukagawa" "Hokusai Katsushika"
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万年橋は小名木川(おなぎ)が隅田川に合流する河口に今も架かっている。 北斎が描いた頃の木造の万年橋がいつ頃架橋されたのか、分かってない。
延宝8年(1680年)の地図『江戸方角安見圖鑑 2巻』では「元番屋のはし」とある。 昔、橋の北詰に船番所があったので、そう呼ばれていた。
この橋が「万年橋」の名で見られるのは、享保17年(1732)の地図『分道本所大繪圖 坤』の頃から。
小名木川は、江戸初期に家康が小名木四郎兵衛に命じて作らせたと言うのが通説で、どうやら、地誌『新編武蔵風土記稿』に「此川慶長年中小名木四郎兵衛掘割し故の名と云へり」と記載があるのが根拠らしい。 隅田川と荒川の間を東西に一直線に結ぶ運河として、行徳の塩や近郊農村の物産などを江戸へ運ぶ目的で開削された。
しかし、前出の地図では、伊奈半十郎の屋敷が万年橋北詰に存在する事に注目したい。 伊奈半十郎とは、関東代官・伊奈忠治の事で、忠治の父・忠次と忠治本人と忠治の長男忠克の三代に亘って関東代官・関東郡代を勤め、関東地方・江戸の新田開発や治水工事に治績を残すほど土木技術に長じていた。
ここに伊奈氏の屋敷が存在したのは、大プロジェクト・小名木川運河開削に関わったからではないか。
深川周辺には面白い話がたくさんあるので、余談をいくつか許されたい。
まず松尾芭蕉
芭蕉は、伊奈氏の屋敷の隣に「深川芭蕉庵」を構え、延宝8年(1680)から元禄7年(1694)まで居住した。 『江戸名所図会』の「芭蕉庵旧址」には、「松平遠州候の庭中にありて、古池の形今なほ存せりといふ」とある。 有名な句「古池や蛙飛びこむ水の音」はここで詠まれたとされ、図には確かに池がある。
元禄6年(1693)の地図『江戸図正方鑑』では伊奈氏の屋敷がまだあり、元禄12年(1699)の地図『江戸大絵図』からは松平遠江守(遠州候)の屋敷に替わっている。 芭蕉庵が存在したのは伊奈氏の時代であろう。
次は忠臣蔵
赤穂浪士が討入った吉良上野介の屋敷は、両国橋を渡ってすぐの回向院裏にあった。 元禄12年の『江戸大絵図』では、そこに「松平ノボリ」の屋敷があり、これが吉良邸に替わった。 赤穂浪士は討入りの後、主君・浅野内匠頭墓所の泉岳寺に向かう時、両国橋通過を拒まれ、吉良邸から1kmほど南の万年橋を渡って、永代橋を通るルートを採ったようだ。
次は「遠山の金さん」
万年橋から1kmほど北東の菊川には、遠山左衛門尉景元いわゆる「遠山の金さん」の屋敷跡がある。 嘉永2年の地図『江戸切絵図 深川絵図』には「遠山左エ門尉」と記されている。
ここは、「遠山の金さん」より50年くらい前には、池波正太郎の時代小説「鬼平犯科帳」で知られる鬼平こと火付盗賊改・長谷川平蔵の屋敷であった。
安永4年(1775)の地図『本所深川細見圖』ではここに「長谷川平蔵」の名が見える。
かくの如く、深川界隈には興味の尽きない江戸時代物語がそこら中に転がっている。
余談が過ぎた。
この図の左の青瓦屋敷は、『江戸切絵図』(嘉永2年頃)に記載のある「御舟蔵」で、『江戸名所図会』の「深川霊雲院」にもこの「御舟蔵」が描かれている。
右の屋敷は、この当時は松平遠江守・忠栄摂津国尼崎藩6代藩主の屋敷で、裏に深川芭蕉庵跡がある。 その昔は伊奈半十郎の屋敷であった。
小名木川が万年橋の下を流れ出たところは、右から左へ流れ下る隅田川である。
橋の下から富士を見せる面白い構図で、画題も「万年橋下」としている。
この図では、北斎が知っていたとされる遠近法について触れない訳にはいかない。 遠近法には多くの種類があるが、ここでは代表的な「一点透視図法(一点消失図法)」からこの図を見てみたい。
極限に遠いものを一点(消失点)に収束させる図法なので、画面上の任意の一点を消失点として、風景はその点に収束するように描かれる。
ここでは、小名木川の水面、左右の川土手と建物、橋桁などが一点消失図法のように描かれているが、
① 消失点が一つではなく、左右別に二つある。
② 消失点は、遠くの地平線(想像位置)と同じ高さになるべきだが、それより下に位置し、しかも左右の高さが異なる。
③ 左右の橋桁の消失点もまた①と②において矛盾がある。
もうお気づきでしょうが、この図は一点消失図法において矛盾があるのです。
もし、北斎が西洋画法から遠近法を理論的に学んでいたとすれば、このような描き方は絶対にしない。 北斎が遠近法を経験の中から自得したのではないか、と私が考える所以です。
北斎が遠近法を自得したとすれは、それ自身が北斎の天才を何よりも証明するものである。
本図では消失点が二つある矛盾故に、万年橋下が広々と表現される効果をもたらしている。
これが北斎の企みであるとすれば恐ろしいほどの才能と言うしかない。
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